オール・ジョブ・ザ・ワールド 感想

 

ヒプノシスマイクの原案をされているH歴の創造神、百瀬祐一郎さんの作品「オール・ジョブ・ザ・ワールド」を読んだ感想です。

 

なぜこの作品を読もうと思ったか・・・なんですが、同じく百瀬さんが原作をされている漫画がありまして


THIS IS IT! 制作進行東雲次郎 #05 Await Rescue(1)|コミックNewtype

THIS IS IT!制作進行東雲次郎という漫画です。

3/9配信の回に、

俺は兄貴と違ってスーパーマンじゃねぇ

というセリフがありました。

スーパーマンというのがキーワードで、これは3/10に発売された、ヒプノシスマイクナゴヤシンジュク戦CDの頻出ワードなのです。

周りのひとがスーパーマンって思っていたら、それはもうスーパーマンなんですよ

俺はスーパーマンじゃない

しかしなってみせるどんなスーパーマンにも

(全てHYPNOSISMIC-Division Rap Battle- 2nd D.R.R Bad Ass TempleVS麻天狼より引用。上から伊弉冉一二三、天国獄、神宮寺寂雷)

 

1枚のCDで3回もスーパーマンという語が出てきて、さらに別世界である東雲次郎でもスーパーマン

こういう、ネタのスターシステムというか読む人が読めばわかるごほうび要素というか、そういうのいいよね!!!

そして百瀬さんが、このように媒体を横断した遊び心を仕掛けてくる方ならば、ぜひ他の作品も読まないといけないだろう。ひょっとして百瀬祐一郎ワールドってゆるくつながってるんじゃないの?という謎の興味&使命感に燃えてしまい今回読書した次第です。

また、私はライトノベルをはじめて読んだためにとんちんかんなことを言っている可能性があります。どうか話半分に聞いて下さい。

 

感想

ライ麦畑でつかまえて

まず主人公の名前がホールデンということで、これは「ライ麦畑でつかまえて」の主人公と同じです。偶然かな?と思っていたら妹がフィービーだったのでこれガチのやつやん(ライ麦畑でつかまえての妹の名もフィービー)、何年か前に読んだからもう内容覚えてないし・・・と慌てて本屋に走り「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を買いました。(ついでなら新訳にしようと思って村上春樹版にした)

初手から文学好きをにっこりさせる技にノックアウト。

オールジョブの推薦コメントでも、斉藤壮馬氏が

顕在化しているものよりもはるかに多くの情報に基づいて書かれている

って言ってるのはこの「ライ麦畑」へのオマージュのことも含まれているはず。

チェルシーの詠唱

私は夜の美麗な月の女王

は「月は無慈悲な夜の女王」かな。追い切れてないけど他にも小説的素養が隠れているはず。

 

案の定ホールデン、フィービー以外にサリーも出てきたし、オールジョブザワールドは百瀬祐一郎版「ライ麦畑でつかまえて」なんだろうなぁと思います。物語の湿度が少し違うけども。

 

16歳の少年のクリスマス前後のあれこれを描いた「ライ麦畑」に、15歳のホールデンに降り掛かった数ヶ月の出来事を描いた「オールジョブ」、どちらもドタバタとした現実を生きる苦労とモラトリアムのしんみりした感覚が同居している感じ。

特に1巻のラストはとってもよくて、狂騒的な場でホールデンがすごく切ないことを言って物語が終わります。

おもろうてやがて悲しき鵜舟かな(松尾芭蕉)

といった読後感。

あとがきに、最初は一般小説ぽかったのを編集者と一緒にライトノベルにしましたということが書かれていたので、もともとはさらに「ライ麦畑」っぽい話だったんじゃないかなーという気がする。

 

ライトノベル

これは「オールジョブ」だけに限った話ではないと思うんだけど、ライトノベルレーベルという予想通り、そんなにどぎつくはないけれど性的な描写がいくつかありました。不思議なことに、登場人物が「お前のやってることはセクハラだ!」みたいなことを言うシーンがあると思えば、数ページ先では美少女の容姿や霊峰(おっぱいだよ)や唇の描写を尽くす・・・という無意識なセクハラ的シーンになっていたりする。

なのでホールデン(主人公)やサリー(男友達)の顔かたち、髪色、目の色、体型なんかはほとんどわからないけれどメグ(美少女その1)とティア(美少女その2)、チェルシー(美少女その3)は髪色からプロポーション、スリーサイズに下着のサイズ、雰囲気にいたるまでよーくわかる。それにやたらとおっぱいあててくるしお風呂では全裸を盗撮されちゃう。

そうそう、登場人物がほぼ美少女なのもラノベ特有の現象なのだろうか?それもちゃんと地の文に「美少女」って書いてあり、試しに「美少女」という単語を数えたら「オール・ジョブ・ザ・ワールド2」では17ヶ所ありました。これが多いのか少ないのかはわからんがそういうのもラノベの文化なのかなーと興味深かった。

 

これはおそらくライトノベルの存在意義のひとつに男性の性的指向を満たすためというのがあるんだろうと捉えました。女性も少女漫画で似たようなことをやっているケースがあるので、お互い様といえばまったくその通り。それに一般小説だって漫画だって、自分の容姿については語らず、相手(特に女性)の容姿だけなぜか細かく描写していたり美醜に言及しているパターンは何百何千と見たのであるあるっちゃああるあるな話である。(突き進めると、書き手と読み手、供給と需要、消費する者とされる者、男と女、などの話になっていくんだと思う)

 

ヒプノシスマイクとの共通点

やっぱり気になるのがヒプマイとの関係なんだけど、結論としては無茶苦茶関係あります。

まず主人公のホールデン君の設定

・暴力的な父に殴られて育ち、父母の死後、妹と孤児院で暮らしていた

・離れ離れになった大好きな妹を探している

・世界から不幸な子どもを無くすためにとにかく大金を稼ぎたいと思っている

 

ああ、山田一郎+碧棺左馬刻だ。

妹のフィービーは国交の断絶した北の国にいるらしく、これはきっと中王区のモチーフだろう。また、ホールデン君はジゴロバージョンになってしまうことがあり、その時は

やあ、僕の子猫ちゃん達

伊弉冉一二三的。

 

あとは「ウジ虫」「害虫」「ごみ虫」

のように人を虫に例える部分や、「カマ野郎」という罵倒だとか、

相手は俺っちだって言ってるだろ~!

俺っちキャラもいる。

 

なんだ良くしゃべるケツの穴だな・・・・・・おっと悪い。よく見たらそいつはケツの穴なんかじゃなくて口だったのか

これはホールデンのセリフだけど、昔の山田一郎がコミカライズでそっくりなことを言ってましたね。

 

びっくりしたのが

「これまた傲慢だな。全部救うなんてよ」

「傲慢でもなんでもいいさ。それで約束を果たせるなら」

ゴヤシンジュク戦での波羅夷空却と神宮寺寂雷のやりとりかと思った。これもオールジョブからの引用です。

 

あとは、オールジョブにもいろいろなスキル効果をキャンセルする「キャンセラー」という素敵な機械が出てくるのが共通点です。

ティアが合鍵作ってホールデンの部屋に侵入してくるのも白膠木簓と同じ。

 

傾向と対策

それで1巻と2巻読んだんですが、とにかく設定が面白い。就職率100%の世界で履歴書を開いて詠唱したら職業(ジョブ)スキルが使えるっていうのが妙に近未来風味で痛快です。履歴書って!!!!!

超成績優秀な主人公ホールデンくんは、なぜか遊び人という超クソジョブに就かされてしまいました。彼が最終的にどうなるのかというと、初期ジョブが遊び人な時点でゴール見えましたよね?その通りドラクエ3FF5みたいな終着点です。

 

だけど困ったことにこの物語、2巻で止まっているのです。1巻が平成29年、2巻が平成30年でその後の音沙汰がありません・・・ちょうど平成29年にヒプマイが始動したので忙しくなられたのかな・・・

オール・ジョブ・ザ・ワールドを読むことで「ヒプノシスマイクはどう着地するのか?」という傾向と対策を学ぶつもりだったけれど、残念ながら未完の物語となっていました。

しかし今回読書したことで、ものすごく続きが気になっている。ホールデンと妹フィービーは会えるのか、メグと行方不明の兄リアムは会えるのか、宿敵ジョン・ドゥ・インク正社員との対決は・・・などなど。

 

ただ、いくつかヒントは蒔かれていて、おそらくフィービーはジョン・ドゥ・インクのメンバーになっています。2巻331ページで

・・・・・・知らない

と発言した人物はホールデンの妹フィービーでしょう。そしてメグの兄はジョン・ドゥ・インクの社長で、本拠地は北の国ヴェルセにある、という筋書きではないでしょうか。

 

不幸な生い立ちながら明るく矜恃を持って生きる若者、行方知れずの彼の兄妹、なぜか敵対してしまう兄妹というあたりがヒプマイとも通じる作家性のように感じました。そういや左馬刻と合歓、ホールデンとフィービー、リアムとメグはみんな兄と妹の組み合わせなんですね。だとしたらもし山田二郎と山田三郎が女の子だったならば、一郎の元には戻ってこなかったのかもしれない。

 

いつか碧棺合歓が碧棺左馬刻と和解し、フィービーとホールデンが再会し、メグとリアムが真実を知ることができますように、百瀬さんの描くすべての兄と妹のわだかまりが解けますように、陰ながらお祈り申しあげます。