ヒプノシスマイクと兄弟姉妹についての一考察 エラーであるところの勘解由使小路無花果

 

 

マガポケ呉屋卯波編、みなさん読んでますか?

最初に卯波という名前を見たときに「ウサギ」で「波」だから因幡の白ウサギみたいなストーリーになるのかと思っていた。でもあのウサギを助けたのは大黒天なのに波羅夷空却は「こっちゃ毘沙門天だもんで」ってDRB+で名乗ってたぞ????神様チェンジか???と頭を悩ませていたら、なんのことはない、卯波というのは卯月(四月)の海の波のことだそうです…

 

それはさておき。

呉屋卯波は碧棺左馬刻に誘拐されたと嘘をつき、そのせいで左馬刻は警察に拘束されてしまいました。なぜ卯波がそんな嘘をついたのかというと、左馬刻の敵対組織が卯波の妹を人質にしており、卯波は妹を助けるために左馬刻を陥れる羽目になっていたのです。

 

妹を助けるために土下座し、左馬刻に誘拐されたとシャレにならない嘘をつく卯波…お姉ちゃんえらいね…

……

……

このパターン、前にも見たな!?

坊城梧桐・翌檜が楓のために一郎たちに嘘ついたのとほぼ同じじゃん!?

そういえば梧桐や翌檜も兄そして姉で、楓は末っ子だった。

 

ちょっと待て、それを言い出すと山田一郎だって似ている。山田一郎はの二郎三郎のために中学生ながら社会の裏仕事をしていた。借金の取り立てをし、ピザをドアノブにかけてしまったりしつつも地べたをはいずり歯を食いしばって必死に頑張った。

碧棺左馬刻だってそうだ。碧棺左馬刻がヤクザになったのはの合歓のためであると以前のプロフィールに記されていた。

ヤクザになるなんて並大抵の覚悟ではできない。例えば三菱UFJニコスでクレジットカードを作る規約はこうだ

私は、私が、暴力団暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業・団体、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずるもの(以下これらを「暴力団員等」という。)またはテロリスト等(疑いがある場合を含む)に該当しないこと、および次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約します。

暴力団員全否定。碧棺左馬刻が反社会的勢力であるかぎり、彼の通る道は祝福されない。Life is not fair.

 

夢野幻太郎という人もいる。彼の眠り続ける双子のに何がおこったのか。まだ公式に明かされていないが、

・双子の兄弟愛

・体制側の陰謀に巻き込まれた青年の戦い

・組織に誘拐され実験体にされかけた双子の兄

という幻太郎の書いた物語から想起されるようなろくでもないことが実際におきたのだろうというのは想像に難くない。

 

伊弉冉一二三も怪しい。彼のは邪党院仄仄によってどえらい目にあったことが示唆されている。

天国獄もこのカテゴリに入るような気がする。天国兄は、直接獄を守って亡くなったわけではないが、弟に何も言わずに一人で我慢しひっそりと死んでいった。

 

というわけで、

呉屋卯波

坊城梧桐・翌檜

山田一

碧棺左馬刻

夢野幻太郎(兄)

伊弉冉一二三(姉)

天国獄(兄)

これみんな兄または姉なんですね。頑張って、我慢して、犠牲になるのはいつも兄か姉。弟や妹につらいところを見せないで陰で泣いている殉教者のようなお姉ちゃんとお兄ちゃんというモチーフはヒプマイにてしばしば現れている。

ヒプマイだけに留まらず、根っこが同じ百瀬祐一郎ワールドにもこの傾向があって、百瀬さんの執筆された「オール・ジョブ・ザ・ワールド」はまさに

・生き別れの妹フィービーを探すためにがんばるホールデン

・生き別れの兄を探すメグ

という兄妹にまつわる物語なのだ。未完なので全貌はつかみにくいんだけど。

そういえば「THIS IS  IT 制作進行東雲次郎」も主人公のお兄さんは超優秀なアニメ監督で何でもできるスーパーマンだったりする。

こういう、「偉大な兄姉と守られた弟妹」という意匠が百瀬さんの作家性なんだろう。お兄ちゃんやお姉ちゃんは偉いのだ。

 

しかし一方、その枠から外れた兄弟も存在する。まずは帳兄弟。兄の残星はパワー担当、弟の残閻は頭脳担当で、彼らは二人でひとつ。兄が弟を守るわけでもない、対等な関係である。むしろ兄は脳筋のアホであり弟のほうが狂言回しを担当している。

そして勘解由使小路姉妹。

勘解由使小路無花果勘解由使小路棗は仲の良い姉妹だった。報道人だった無花果はある事件を追っていたが、事件を探る人々に次々と圧力がかかる。ひとりまたひとりと手を引く仲間たち。無花果にもこれ以上嗅ぎ回るなと圧力がかかる。しかし諦めない無花果のその結果、妹が殺された。

 

勘解由使小路姉妹と帳兄弟。この人たちは「兄姉が弟妹を守るべき」というヒプマイ的兄弟観とは外れてしまった。その結果何がおきたかというと、彼女・彼らは「敵側」に配置されているんですね。中王区に立ちはだかる無花果、一郎や左馬刻たちの前に出てきては何度も何度も情けなくやっつけられる帳兄弟。

ひょっとして、弟や妹を守らない兄姉は敵側に配置される…?まさか、とは思うけれど、けれど、そういう無意識の好みや信念みたいなものが案外物語に影響をおよぼすということもあるのかもしれない。

 

そして

勘解由使小路無花果は、本来なら妹を守るために諦めたり我慢しなきゃならなかったのだろう。しかし無花果は我慢をしなかった。使命感と少しの好奇心が勝った彼女は自分のしたいように事件を追った。その結果妹は死に、姉が妹を守るべきというヒプノシスマイク的価値観からはみ出した、エラーであるところの無花果は絶望のあまり中王区に向かった。ヒプノシスマイク世界の姉としてふさわしくなかった「我慢することができなかった」勘解由使小路無花果に与えられた運命が山田一郎たちの敵役であること、いつか一郎や左馬刻といった「我慢した」兄たちに倒されるだろうことを思うと、なぜかどうにもやりきれない思いでいっぱいになるのです。
 

 

 

 

 

(ただ、棗の死については東方天乙統女が手を回した可能性は否定できない。また、一郎と無花果たちが戦い中王区が瓦解した後で、この少しゆがんだ兄姉の殉教的価値観もこわれ、自分が自分のために生きることが祝福される世界になることを個人的には願っている)

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