ゼロサム8月号「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- side F.P & M+」第六話感想

 

ヒプマイ者のみなさん、今すぐ月刊ゼロサム8月号を読みましょう

 

ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- side F.P & M+第六話がとんでもない名作だからです。城キイコさんの漫画力が爆発している。

どれくらいすごいかというと伝説の「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- side F.P & M hook6」と同レベルのすごさです。

つまり完甘がコテンパンにやられ、夢野幻太郎が自分は双子であると匂わせた回(あらためて考えると完甘と夢野双子説が同じ回で描かれたというのがヤバい)と同じくらいの密度と熱量をもっているのだ。密です、3密。

 

以下延々と感想を綴りますが、ゼロサム8月号を読んでいる前提で書くのでわかりにくい部分があるかとおもいます。ゼロサム読んでない方は読んでからご覧ください。Kindleなら509円で読めますよ。なんとかフラペチーノ1回分です。天国獄のお兄ちゃんの名前もわかります。

 

ゼロサム8月号感想

まず、14歳の神宮寺寂雷と天国獄のビジュアルがもう言葉にならない。寂雷は今の面影がある。穏やかで賢く、でもちょっと浮世離れして相手のコンプレックスを刺激する言動をしてしまう。そして天国獄14歳の破壊力…

・短髪学ラン

・垂れ目に泣きぼくろ

・ヒステリーをからかわれる

・すでに「俺には~2つある」をやっている

もうほんとにかわいくてたまらんかった。

天国獄さんはリーゼントに顎髭というビジュアルでマスクされているけれど、実は残念イケメン枠だと思っています。もし天国獄35歳が14歳当時のように短髪でデザインされていたらなかなか手堅い人気を得たキャラなのではないでしょうか。誰だリーゼントにしたの。獄か。じゃあ仕方ないか。

あと神宮寺寂雷14歳、天国獄14歳と並べると山田三郎14歳の屈折がものすごいというのもわかって興味深い。

 

さて寂雷と獄は二十歳になりました。どうやら東京大学です、すごい。

ところでヒプノシスマイクの人々って山田一郎や碧棺左馬刻を筆頭にけっこうつらい青春時代を送っていた人が多そうなんだけど、寂雷とひとやってなかなか恵まれている。お互い良い友人で、いい環境で中高一貫校から大学まで行き医学部に入る。

(ヒプマイのキラキラ青春枠が35歳のおじさんふたりの担当だったということに正直おどろいている。きれいな青春アミーゴみたい)

 

そして23歳になった獄は大学に来なくなっていました。兄の死はいじめであると告発する手紙が届き、主犯を法で裁きたいと法律を勉強していたのです。

この獄の部屋のシーンは最高にぐっときました。寂雷が手伝うと言った時の獄のほっとした顔といったら…もう…

ところで大学時代の獄のアパート、ワンルームで折りたたみテーブル(足が金属になってるちゃぶ台みたいなやつです)なんだな。ごく普通の住まいだったので天国家は特別裕福なご家庭でもなさそうでした。

ただ、折りたたみテーブルの天板中央にガラス的なものがはめ込んであるなかなか個性的なデザインだったので、おそらく限られた予算の中で自分の好みに合うかっこいいやつを探したんだろう。ゆくゆく弁護士事務所にバーカウンターをしつらえる美学の片鱗がもう出ちゃってます。

 

寂雷と獄はいじめの首謀者をつきとめ、兄をいじめていた件について質問します。そしたらね、否定されるわ逃げられるわ、おまけに証言してくれるはずの人にも撤退されちゃうんですよね…

たぶん、天国兄のいじめについて話してくれる人が証言をとりやめたのは「首謀者の菱喰が手を回したから」で、なぜ菱喰が手を回したのかというと「寂雷と天国獄が菱喰に接触したから」なんだな。だから法廷で兄のいじめを裁けなかったのは獄=自分の失敗ということになる。

もちろんあの場で菱喰が過ちを認める可能性もあったし、正々堂々といきたかった天国獄の気持ちはよくわかる。天国獄はフェアプレー精神を重んじる人っぽいから。

でも結果的に自分の勇み足のために失敗してしまったわけで、獄はそれをわかっているからとっても辛いし、勝負事の勉強不足を痛感して弁護士になったというのもあるのだろうな。

 

一方の神宮寺寂雷が何を考えたかというと、なんと私刑です。法の力では菱喰を罰するのは無理そうだと考えた寂雷は、ウェイブで菱喰をやっちまおうとするのだ。

・あくまで法で裁こうとする獄

・法を越えた力で裁こうとする寂雷

このふたりの対比がすごくいい。

獄は作中で何回か寂雷のことを独善的だと言うんだけど、まさに寂雷の独り善がりな面がウェイブという私刑にもってこいのパワーに表出されているようだ。(そして寂雷のスキルmedicationは「立派な偽善」の表現だと思う。寂雷の手は人を殺めることも救うこともできるアンビバレントな存在としてゼロサム内でも象徴的に描かれていた)

そういやナゴヤ対シンジュクのドラマパートで、伊弉冉一二三が「先生はスーパーマンみたいですね」って寂雷を評していたけれど、スーパーマンってヒーローだと言われてるもののよく考えると法も警察も超えた私刑の人である。

“先生ってちょっと超法規的存在ですね”って意味だったならば、いつもながらひふみは鋭いとこをついてくる。

 

そしてドラマパートでも描かれた問題のシーンです。

加害者たちが本当にやっていたという証拠がない、そんな状態で訴えたらその人達の人生を壊してしまう

という寂雷の言葉に失望した獄は、寂雷と絶縁する。

だけどこれ、ドラマではよくわからなかったけど寂雷はひたすら獄のことを心配しているシーンだったんだな。

寂雷は何度も

(卑怯な手を使うと)

「獄の努力と気持ちを踏みにじることになる」

「君の努力も無駄になる」

「独学で法律を勉強した君自身をも否定することになる」っていって、ひたすら獄のことだけを考えている。

証拠の捏造をした獄の魂が汚れたり、それがバレて逆に獄が不利になる事態から獄を守りたかったんだなーということがゼロサムを読んでよくわかりました。まったくすごい補完です。どうやら寂雷は獄のことをとても高く評価していて、物議を醸した「医者の道は諦めたんだな」というセリフも、“天国は弁護士をやりながら医者もやるんだろう。獄は医者になりたがっていたし、それくらいできる人物だ”という寂雷の予測がベースにありそうなことがうかがえた。わずか数十ページで我々にコペルニクス的転回を促したゼロサムすごい城キイコさんすごい

 

だけど結局のところ、寂雷は獄の正義の魂を守りたくて、獄は菱喰に逃げられたショックで混乱していて、二人はすれ違ってしまった。寂雷は殺し屋イルドックのことを獄に話さなかったけど、獄にとってはそれも悲しかった。

なんとなくだけど、寂雷はいつか獄に殺し屋イルドックのことを話すような気がする。法を重んじる獄は、法を乗り越えて勝手に人を殺していた寂雷のことをどう思うんだろうか。独善的だと言うのだろうか。

獄が実際に何を思うかはわからないが、きっと獄は弁護士として寂雷の罪を弁護するんだろう。

天国獄が「勝てない裁判をしない」ってのはいつか「勝てない裁判をする」ってことの前フリだと思ってて、じゃあ獄が引き受ける勝てない裁判って何なんだといったらそれは神宮寺寂雷の昔の罪についての裁判であって、寂雷がすべて話すことで二人はまた昔のような親友に戻る。そこから寂雷の本当の贖罪と友情がはじまるような、そんな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、飴村乱数と寂雷、天国獄と寂雷は「わかってくれそうな人がわかってくれなかった」という悲しみの物語でもあるので、人は神宮寺寂雷に「わかってもらおう」としないほうがいいのかもしれない。ひふみと独歩は寂雷にわかってもらおうとしてないから傍にいられるし、神宮寺寂雷は届きそうでつかめないいちごなのだ。あるいは、愛する人でも食べ物でも触れたものをすべて冷たい黄金にかえてしまうミダス王のようなものか。