沈黙への供物、虚無への供物 少年マガジンエッジ2022年5月号『ヒプノシスマイク -Before The Battle- Dawn Of Divisions』感想

 

 

 

少年マガジンエッジ2022年5月号はフリングポッセの過去回でした。培養槽から生まれたての無機質無感動な飴村乱数が、いかにして今のヤリチン、じゃなかった。人気者になったのか…という秘密が明かされた。

どうやらキーパーソンは舞城華灯という青年で、読書好きなら名前を見た瞬間にワッと思ったはずなんですがおそらく元ネタが舞城王太郎

 

つまりフリングポッセ、

飴村乱数→飴村行

夢野幻太郎→夢野久作

有栖川帝統→有栖川有栖

舞城華灯→舞城王太郎

と、全員日本のミステリー?作家から名前を借りているわけです。シブヤは文学少女(少年)狙い撃ちですよ。こんなの優勝するに決まってるよおめでとうございます。

前々から舞城王太郎要素はヒプマイに噛んでるんじゃないかと薄々思っており、怪文書をしたためていたのでとても嬉しい。


もしかすると山田兄弟の名前の由来って舞城王太郎なのではという話 - pyonkospicaの日記


サリンジャーから『メフィスト』へ、そして『ヒプノシスマイク』へ - pyonkospicaの日記

 

さて、飴村乱数の過去だけでなく他にも明かされたことがある。それは夢野幻太郎のデビュー作のタイトルで、『沈黙への供物』というのだ。またしても読書好きならワワッとなったのではないだろうか。今回のエッジは読むたびにワッワッとなるので我々はもうちいかわである。

『沈黙への供物』、これはもう元ネタが明らかに『虚無への供物』なんです。『虚無への供物』というのは中井英夫氏が書いたアンチミステリーの金字塔のような小説。

しかし恥ずかしながら未読だった。というわけでさっそく読んでみる…

 

ネタバレになるからざっくりした感想だが

・開始3ページ目で黄色い薔薇をくわえた水商売の青年が出てきて伊弉冉一二三のことを思い出し動悸がした。

黄いろの薔薇は花言葉が良くないのよ

という台詞がでてきて、もちろん一二三とは無関係なはずなのに幻太郎の壮大な嫌味みたいで震える。

・わりと前半でいきなり「存在しているのに存在しなくなった兄弟」(夢野兄…)が鍵となるストーリーとなり緊張する。

・主要人物のひとり、亜利夫は名前の近似性からアリスになぞらえられており、アリスガワとの類似にびびる

・ある水難事故が通奏低音として流れており、もしかしたら波羅夷空却(海が嫌い)のお母さんは海で亡くなったのかもしれないという可能性について考えてしまう

 

と、『虚無への供物』自体はアンチ符号的なスタンスの物語であるが、幸か不幸かヒプマイと符号しまくるということがわかったので皆さんもぜひ読んでみてほしい。

そうそう、エッジの5月号では有栖川帝統のお坊ちゃん時代の姿も一瞬描かれていました。白いブレザーを着て今より短い髪をして黒塗りの車で送迎されるという絵に描いたような箱入り息子だった。

 

そしてうっすらと浮かび上がってきた可能性。

飴村乱数は舞城華灯のまねをしている
夢野幻太郎は夢野兄のまねをしている

ということはシブヤはみんな誰かの真似をしており、オリジナルな姿をまだ見せていないのではないかという可能性。

じゃあ有栖川帝統も誰かのまねをして……
るのかと思いきや、実はもうあれは誰かのまねをやめた後の姿だったらいい。あの宿なし風呂なしモッズコートのギャンブラーこそが有栖川帝統の完成形だったりしたらすごくいい。

自分の生きる人生を愛せ、自分が愛する人生を生きろ

というのは有栖川帝統の座右の銘

自分の人生を愛するために羽化した帝統の後には白いブレザーだけが残され、柔らかい光を放っている

のかもしれない。