7連続CDも大詰めに向かっています
2024年11月13日はナゴヤの新譜『.Bad Ass Temple』発売日
私はキングレコード様に謝らないといけないことがあって、ナゴヤが中王区主催のディビジョンラップバトルに参加する意味って何なんだろう?ナゴヤはヒプノシスマイクという物語において、どういう役割があるのだろう?と、ここ5年ばかり考えていたわけです。
イケブクロなら母と父との真実を探る物語
ヨコハマは妹や警察・軍をめぐる物語
シブヤは乱数の命、幻太郎の兄、帝統の母について
シンジュクは眠るヨツツジくんと仄仄の因縁
オオサカは天谷奴零の秘密と計画
という風に、5ディビジョンは中王区と密接に関わりのあるシナリオになっているけれどナゴヤはよくわからなかった。空却も十四も獄も、2019年から語られている物語のなかで特に中王区に接点はないしなぁ…謎だなぁと首をひねっていた。
その謎が今回のドラマトラックで明らかになった、気がする。
結論からいうと、たぶんナゴヤは、「『ディビジョンラップバトル』や、さらに言うと『ヒプノシスマイク』というコンテンツ自体について疑問を持ち、考える」という、他とは違う別レイヤーの役割を持ったチームなのだと思う。ナゴヤと中王区の接点はどこだ?と探すより、ナゴヤと中王区に接点がないということはどういう意味を持つのか?を考えればナゴヤシナリオの流れは予想できたのだ。これは気づかなかったよキングレコード様すごいわ。
ナゴヤはあえて3人とも中王区と関係がないキャラクター造形にしてある、なのでディビジョンラップバトルに参加する意味が他ディビジョンより薄く、だからこそ一歩引いた位置でこの大会を見ることができた。その結果今回ナゴヤはどうなったかというと、空却がディビジョンラップバトルに参加しないと宣言することができたわけです。
そうか、他のディビジョンとは違いナゴヤには参加しないという選択肢があるわけだ。だって誰も中王区には関係ないから。
だとしたら、中王区に関係がないならナゴヤはシナリオが薄くなるのでは?ということではなくて、「中王区に関係がない」というそれこそがナゴヤの強みであり6番目のディビジョンとして存在する意味だったわけです。中王区との因縁がないということは、中王区に自分の正直な意見を言うことができるということ。だから空却はディビジョンラップバトルに参加しないと、18人の中でただ1人言うことができたのだ。例えるなら、王様は裸だと指摘した子どもの立ち位置だろうか。ものすごいワイルドカードだったんだなナゴヤ。
マイクと暴力
剣はペンよりヒプノシスマイクと言うけれど、ヒプノシスマイクって暴力には勝てないよね?マイクで戦うのはルールを守りラップができる選ばれし層だけで、それ以外の人もH歴にはたくさんいるよね?
というのがたぶん今年10月のヒプノシスマイク舞台、-Grateful Cypher-で語られた内容で、ヒプ男ヒプ女はマイクを持たずケーキも個性的な切り方をしそうなハチオウジディビジョンの登場に議論を尽くしたわけだけれど、今回のナゴヤのストーリーもまさにそういう傾向の話だった。イケブクロにいた若い頃に喧嘩をしまくった波羅夷空却は恨みをかい、空却の関係者だからという理由で復讐のために十四が襲われ、波羅夷灼空がバット(ヒプノシスマイクですらない!)で殴られ意識不明の重傷となる。空却を恨み十四を襲うのはたいへんに卑怯な話なのだが、元はといえば空却がイケブクロ時代に必要以上にふるった暴力が原因になっているので実は因果応報=争いの螺旋上の出来事である。(今回獄も言っていたけれど、違法で危険な事象を目撃した時に市民が取るべき行動は「警察にまかせる」であり、空却はそれ以上を踏み抜き相手をボコるので個人的なトラブルを引き寄せている)
灼空を殴った相手たちは少年院上がりのダルマをはじめとした大所帯で、十四と灼空という2人に対して大勢で取り囲むルール無用っぷり。結局ヒプノシスマイクでのラップバトルというのはラップエリート層のやり方であって、腕力の世界で生きてる人たちにとってはラップバトルという概念はないんだと言うことがよくわかる。
喧嘩三昧の空却だったが、父が倒れて初めて父の言葉の意味を理解した。
争いは螺旋だ
どこかで降りなければ延々と続いていく
と言うのが灼空の言葉であり今回のナゴヤのテーマになっている。
さて、上記の灼空の言葉だけれどどこかで聞いたことがないだろうか。
私が思い出したのはこれ
男たち同士……
争いの螺旋を永遠に彷徨いなさい
これはヒプノシスマイクのコミカライズ、『side B.B&M.T.C』のシリーズラスト、第3巻の最後に東方天乙統女が言ったセリフです。
よく似てますよね。つまり乙統女様がディビジョンラップバトルを開催している目的は、出場者に争いの螺旋を彷徨わせることなわけです。乙統女様は、ディビジョンラップバトルは男たちの争いしか生まないし生産性もないし終わりがない堂々巡りの諍いのタネでしかないということを全部わかった上で開催している。少なくとも1stと2ndはそう。悪い奴だな〜乙統女様。
しかし父が倒れ、身近な人が自分の噛んだ争いの螺旋に巻き込まれたのを見た空却は、そんな中王区の意図をクリアに理解してしまった。ドラマトラック内でも、ディビジョンラップバトルに出場しない理由として「拙僧は争いの螺旋から降りることにした」と発言しているように、空却にはディビジョンラップバトルが争いの螺旋発生器にすぎないことがわかってしまったのだ。だから「バカげた大会」だと一蹴して3rdバトルには出ないと決めたわけです。空却には中王区の知り合いもいないし誰かを人質に取られているわけでもなく、知りたい真実があるわけでもなくチームメイトの十四も獄も中王とは無関係。だから、あれはバカげた大会だし出場しないと宣言することができるのだ。
というわけでナゴヤというのはディビジョンラップバトルが茶番であることを指摘する役割で、それをシナリオに組み込んだヒプノシスマイクというプロジェクトにNOを唱えることができる唯一のディビジョンだったのです。そういう意味で他の5チームとはそもそもが異質なチームだったんだな。
ドラマトラックのストーリーは進み結局ナゴヤも3rdバトルに出場します。そりゃそうだ。だけど私は、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 」によって生み出されたキャラクターの1人である波羅夷空却が、“ディビジョンラップバトルはバカげた大会だ”と言ったこと、“自分は参加しない”と真っ直ぐ言ったことをとても尊く感じるのだ。その瞬間、波羅夷空却は女性向けコンテンツの二次元のキャラクターではなくて、確実にこの世界に存在して、自分の言葉で「否」を言ったような気がしたよ。
ところで…
十四くんの楽曲「Continued」めちゃくちゃ良かったですよね!?試聴で聴いた時には可愛い声で「クソみたいな日常」とか「fu×k」とかいうからびっくりしたけれど、全編聴いたら、あの…あのギミックに涙ですよ…声が…歌い方が…!同じ歌詞を違う歌い方にして再び歌う凄みよ…!
そういえばキャラ的にこういうやり方も可能なはずだった!と目からウロコがたくさん落ちました。
そうやっていつも元通り
というリリックの檻のような永遠性に考えさせられる。人が生きるってことは「そうやっていつも元通り」を繰り返してちょっとずつ螺旋を登っていくことなんだろう。
これは本当に生で聴きたい、ファンミーティングを申し込んどけば良かったー!とじたばたしました。今からだと休みの調整が無理だろうな 新幹線も無理そう 涙
シナリオ的にも十四くんはたぶん今回のMVP。
許す許さないではない、過去は変えられない、憎しみはいつか消える、罪を憎んで人を憎まず…という思いを披露したけれど、たぶんナゴヤで悟りに一番近い場所にいるのが十四くんな気がする。争いの螺旋からいちぬけたってヒョイっと抜けてそう。
余談ですが、十四くんも幻太郎も中心にある一人称は「おれ」だったんだな…としみじみした。7連続CDとは男たちが本当の姿になっていく物語だったのかもしれない。
スタートラインに立った空却
無自覚に悟りのそばにいる十四
少しずつ前を向く獄
そんな3人のバランスも暖かくて、いいストーリーだったな、幸せになれよナゴヤ…と思った次第です。でも空却はこれから、自分の始めた争いの連鎖の落とし前をつけていかないといけない。ダルマ以外にも空却を恨んでる人はたくさんいるだろうし、その人たちはまた空却の周りの人を狙うかもしれない。なかなか辛い人生だなと思う。