日本初のインタラクティブ映画でありヒプノシスマイクの初映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- Movie』の感想です。各チームの優勝ルートについての感想を書いています。
ところでこの「ディビジョンラップバトル」というもの、少なくとも初期は「各ディビジョン代表のMCグループがバトルをし、勝った地区は決められた分の他の領土を獲得することができる」と名言されているので、VOTING STATUSで各地の優勝結果≒陣取り合戦が可視化されるのは初期の設定に非常に忠実だと思う。相変わらずヒプノシスマイクは伏線とその回収を何年も時間をかけて真面目にやるコンテンツである。
イケブクロ優勝ルート感想
イケブクロ優勝ルートは勝った時に3人が床に転がって笑顔で喜びあうのが印象的なルート。頬を赤くして、本来の19歳らしい闊達さで喜ぶ山田一郎には涙を禁じ得ない。
ところでイケブクロ優勝ルートをすごく単純な話にすると、父・山田零と母・山田那由多が作り天谷奴零が世に撒いたヒプノシスマイクという厄介不思議マイクを使って2人の子どもである山田三兄弟が戦い、見事に優勝をおさめたというストーリーである。父母の作った道具を使って勝利し、平穏な世界を手に入れる(そして父を超える)。山田一郎のソロ1曲目がエヴァオマージュだったことを考えると、これはやはりイケブクロルートはストーリー的にも新世紀エヴァンゲリオンのオマージュなのだろう。パパのヒプノシススピーカーもゼーレのモノリスに似ているものな。山田一郎がシンジ、天谷奴零は名前はレイだけどゲンドウ、山田那由多がユイ。ここまではいいとして、じゃあ山田三郎はアスカ???(あんたバカァ?≒低脳)、山田二郎は誰?
『.Buster Bros!!!』で山田三郎が農村に単身飛び込んで四苦八苦しながら人間の営みを学ぶシーンがあったけど、頭でっかちな14歳が農村へ行って人の絆を知る…というのはシン・エヴァンゲリオンで綾波レイがやっていたのでそのオマージュなのかもしれない。
イケブクロがエヴァなのだったら、彼ら3人が唯一の10代チームだった理由もうなずける。20歳越えたらもうチルドレンではなくなるからだ。
ヨコハマ優勝ルート感想、あるいはサマトキさまとササラと青春の終わり
特にサマトキさまについての感想を書きます。長いし情緒がめちゃくちゃです。「なんでも許せる人向け」です。
サマトキさまはMCD時代は簓と組んで快進撃を続けていた人で、MCDの後で一郎・乱数・寂雷と組んだTDDでは全国制覇し頂点にいた人だった。 しかしTDDは解散し、サマトキさまは銃兎・理鶯と組んだMTCの一員となる。 そんなサマトキさまは、MTCになり「過去」の仲間に連敗しまくるという状況になった。 第1回ディビジョンラップバトルではシンジュクに決勝で敗れ、第2回ディビジョンラップバトルではなんと1回戦でシブヤに負けた。 映画内でも本人が言っているように、「2回も土を噛んだ」わけだ。
サマトキさまは面白くないだろう。過去の自分は負け知らずだった。なのに現在は負け続けなのだ。力こそパワー(だった)サマトキさまは人しれず悩んだかもしれない。ひょっとして、もしかして、過去こそが正しくて、現在の自分は間違っているのでは…???
なのでサマトキさまの思考は過去へ帰っていく。ヒプムビを観ると、サマトキさまがいまだに簓にモヤモヤとした感情を持っていることがわかる。
「六色が交わる時、『』が始まる」にてサマトキさまと簓は和解したという話だったのだが、どうやらヒプムビのサマトキさまにとっては、まだしこりが残っているのだ。それもでっかいやつが。
サマトキさまにとって簓は大切な相棒だったから、簓が急に暴言を吐いて消えてしまったことにサマトキさまはすごく傷ついた。サマトキさまはそれをいまだに消化しきれていない。サマトキさまは元来、物事には筋が通っていたいタイプの人で、おまけに情が深いので、乱数の洗脳にせよ何にせよいきなり理由もなく相棒がキレて一方的にコンビ解消されるなんてわけのわからない話は辛いのである。
しかし一方で、簓はその別れをそんなに引きずっていない。たぶん簓は、自分がそこまで誰かに好かれていたということ自体にあまりピンときていない。簓は幼いころに両親の離婚問題に晒されており、そこはかとなくアダルトチルドレン気質のある人なのでどこか自分の存在を軽く考えているように見える。ヨコハマ勝利ルートではサマトキ様が簓に向かい、“俺様が背中を預けた奴は強い。今までもこれからもな”といったことを言うのだが、簓はそれに対し“何や俺のことも入れてくれてるんか、素直に嬉しいわ”といった内容の言葉を返す。ああ簓、君はなぜそんなに、自分が他者の目に入ってないと思う癖があるのか⋯
また、簓の座右の銘はこうである。
俺の人生を変えられるのは俺だけや
誰も俺の為にそんな事やってくれへん
なんという孤独な心意気だろうか。おそらく簓は本質的に誰のことも信頼できないし、誰かが自分のことを考えてくれるなんて思えない人間なのだ。(人間だったのだ、という方が正しいのだと思う。簓もH歴でアイカタがバックアゲインしたりトリオになったりで心境の変化があったのだから)(でも幻太郎は座右の銘が変更になったのに簓は変更されていないので、実は簓は本質的にはあまり変わっていなかったりして)
だから、簓からしたらサマトキさまがなんか知らんけどやたら過去にこだわる人に見えている。だから簓は平気で、今がおもろないんか?進んでるようでムーンウォーク!などとサマトキさまに言ってしまう。サマトキさまは、簓とタッグを組んでいたことを含めて心が過去にさ迷っているというのに…
そんな「過去」に悩めるサマトキさまにとってファイナルディビジョンラップバトルでの優勝は「現在」のサマトキさまとMTCを肯定する何よりの祝福でありトゥルーエンドである。サマトキさまのチームは優勝し日本一となった。それは簓との過去や、TDDとの過去を塗り替えた。強いということは正しいということである。MTCを組んだことは正しかったのである。過去を越えられなかったサマトキさまは過去を越えた。サマトキさまは過去を清算し、現在を肯定し、やっと未来に進み出せるのだ。だから優勝したサマトキさまは、あんなに晴れ晴れとした顔で笑ったのである。
ヒプマイのリーダー6人たちの物語って、昔は一番の親友だった人が、時や環境の変化で今はもう一番の仲良しではなくなってしまったな……相手にはもう別の仲良しな人ができているんだな……という哀しさとその受容の物語で、それはみんな「青春の終わり」として大人になると経験することで、だからこんなに大勢の人に共感されるのかもしれない。 サマトキさま、おめでとう。
シブヤ優勝ルート感想
シブヤ優勝ルートは非常にいい話である。そもそもシブヤチーム自体が中王の人造人間にして元スパイ、中王に兄を粛清された弟、中王のトップの息子、と全員が中王とものすごい因縁を持つ3人で構成されている。ある意味ヒプノシスマイクDRB編の裏主人公であり物語を牽引する役目のあった人々である(だからシブヤはセカンドバトルで優勝チームにもなった)。そんな風に中王に因縁のありまくるチームが中王に勝つんだからこれはカタルシスしかないルートだし、物語的にもとっても座りがよい。
シブヤ優勝ルートを観るということは確定で『バラの束』のMVを観るということだが、バラの束のMVは他チームのMVに比べると意味が読み解きやすいと思う。
・バラの部屋は乱数の心を表している
・バラの並びは左から幻乱帝
(チームの標準的構図と同じ)
・バラの開花具合と各人の心の開き具合が連動している
・途中で幻太郎のバラがほころんだ=「マリオネットの孤独と涙と希望と」で幻太郎が正体を明かした
・お互いの素性がわかり蕾に戻ったバラがまた花開く=「.Fling Posse」
最初にバラの部屋にいるのは中王のスパイとしての乱数で、監視カメラを探る幻太郎を止めたりバラの部屋に入ろうとする帝統を止めたりするのはまだ乱数の心は中王側にあることを表している。しかし2人と過ごすうちに乱数は徐々に心を開く。途中、中王に兄を粛清された幻太郎のことを考えてしまいバラはしぼんでしまうが、乱数は意を決して心を開き2人をバラの部屋に迎えいれる。するとバラは3輪とも美しく花開くのだった…
シブヤが優勝したとすると、帝統は前指導者の息子なので中王区の残党狂信者から乙統女様の血を引く新生中王区のリーダーとしてまつりあげられるような気もするし、新しい時代のリーダーというかお神輿として旧政府側の人間からコンタクトがあるかもしれない。そもそも東方天財閥の跡取り候補の1人でもあるし。なんだかいろいろ大変そうな気もするが帝統はうまく逃げていくのだろう。あと、かりにもアナウンサーでジャーナリズムにも足を突っ込んでいた無花果さんに向かって“あんまり賢そうに見えない”と決戦前にディスった幻太郎はもし決戦で負けたならば全著書が無花果怒りの発禁にされると思う。
シンジュク優勝ルート感想
近所の映画館で優勝ガチャを回す、という鑑賞方法だったために最後まで観れなかったシンジュク優勝。6/22の一二三誕生日のアベマ配信で観ることができました。びっくりしたのはシンジュクはまさかの飲酒エンドだったこと!一二三が“今日はシャンパンを開けて祝おう”的なことを言い、独歩が“自分も飲みたい。でも先生は⋯”みたいなことを返す。すると寂雷が“今日は私も飲みたい!”と答える。それで本当にシンジュク編の会話が終わる。てやんでいエンドやん!っていう。いや、麻天狼のオチがそれだとは本当にびっくりした。私は酒乱の寂雷ネタは大好きなので嬉しいです。ギャグエンドにも見えるし、ついに酒乱の自己と向き合うのかもしれないエンドにも見える不思議な終わり方。
オオサカ優勝ルート感想
天谷奴さんの視点で見ると、世間を騒がせすぎた真正ヒプノシスマイクというヤバいブツを開発者として「穏便に」中王から回収するための、実は正当性のある切実な戦いである。また、マスターマインドの二つ名を持つ天谷奴さんが本気を出して絵を描けばH歴の信望を集め優勝することだって簡単にできるということである。天谷奴さんはもしかしたら、最終的にこうなることを見越して、「勝てる人材」として簓と盧笙に目をつけ、勝つために二人をバックアゲインして絆パワーを高めていたとしたならば、それはたいへん怖い話である。
オオサカが優勝した場合、簓は会場に向かって「淑女の皆さん」と呼びかける。というわけであの会場には淑女しかいないのがほぼ確定しており、最後の最後で中王区による政治のグロテスク具合が引き立つのも怖い話である。
ナゴヤ優勝ルート感想
優勝ルートとは関係ないのだけれどヒプムビの十四くんって本当にいいキャラクターだと思う。空却がナゴヤ城にやらかしたことを見てヒィッとおびえたり、空却と一郎の関係性を見て自分ケモノにはなれないっすと呟いたり、十四くんは空却を信頼して尊敬してついて行ってるんだけれど、それと同時に十四くんには十四くんの規範があり倫理があるというのが伝わってくる。十四くんは単なる空却のイエスマンではないという部分がとてもいい。あと、天国獄はヒプノシスマイク登場時からずっと我慢ならんものがある人として描かれていたけれど、最後の最後の優勝ルートで我慢を覚えたのがたまらなく面白く、かつ美しいオチだと思った。
中王優勝ルート感想
中王区エンドはとにかくアドレナリンが出た。優勝チームが中王区と表示されてからその後のピンクに染まった世界が(実際はそんなことはないのに)ヴィランが勝っちゃったバッドエンド感がものすごくて非常に興奮した。私は中王区は大好きなのだが、しかしながら、ヤバいチームを優勝させちまったぜ……やっちまったな……というあの謎の一体感、同じ回を観た人たちが共犯になったような感覚は何なのだろうか。男たちがあんなに頑張ったのに結局一人勝ちして二度目の革命まで成功させた乙統女様は最高である。『WINK』では負け戦の匂いを漂わせていた3人だが、最後に笑うのは乙女なのであった。
追記
久しぶりに中王優勝ルートをみて、これはやはりとんでもないと思ったので感想
(無花果さんと合歓さんの物語についてはまた別の話になるので今回触れていません)
ヒプムビ再上映で、半年ぶりに中王優勝ルートを観ることができました。これで2回目となります。私が通ってる映画館はガチの「毎回優勝がどこになるか読めない館」なので、中王優勝ルートはいつもいきなりやってくる。前回の中王優勝を観たときは初見でわけがわからず脳が焼かれたけれど、それから半年して何回もムビを観て、全チーム優勝も観たあとで中王優勝ルートに接すると、これはやはりとんでもないオチだと思った。
なにがとんでもないかというと、乙統女様、優勝後のセリフのなかでしっかり改心していたのだ。うろ覚えだけれど、性差を強調するのはよくない、とか自分はやりすぎた、これからはもっとがんばる、みたいな内容のことを演説する。
これはやばい。乙統女様はひとりで改心してしまった。自分の思想を修正し、これからはよりよき治世者としてがんばるという決意ができてしまった。コンテンツの最初では悪役的存在として登場したのに、勝手に成長し、よい政治家にメタモルフォーゼしてしまった。
これでは、もともと12→18人の男たちが中王に争われ競わされ、こんな世界変えてやる!というストーリーとして始まったヒプノシスマイクが、「男たちと中王との長い戦いは全部乙統女様を成長させ、よりよい統治者にするための経験になったよ♡」という話になってしまう。
兵器ではなく言葉が
力を持つことになった世界で今、
男たちの威信をかけた
ディビジョンバトルが始まる。
(初期の公式サイトより引用)
という始まり方をした物語が、
紆余曲折あったものの男たちはファイナルバトルで中王に敗北しました。最終決戦を終え、東方天乙統女はこれまでのやり方を反省してよりよい治世を目指すことを誓うのでした
という終わり方をする。
男たちの物語としてスタートしたヒプノシスマイクという物語自体が、中王優勝により、東方天乙統女という人間の政治家がんばり物語として書き換わってしまうのだ。
もちろん、それが勝利ということである。
18人の男たちは乙統女様が成長するための礎となったのだ。映画でも、中王優勝ルートが確定してからは男たちは押し黙ったままである。主体と客体が転換する。当初背景であり敵であった乙統女様はついに主人公となった。東方天乙統女様はヒプノシスマイクという物語自体を、男たちの物語から自分自身の物語に書き換えたのだ。
これぞMic rewrites the ending
(=マイクでエンディングを書き換える)
もちろん、ヒプノシスマイクの男たち18人は正しくフェアな人たちなので、平等で平和で安全な世の中になるならば中王が勝っても全然オッケーなのである。たぶん。特に寂雷は初期から、中王区が政権をとったことで紛争がへり、人類全体の歴史からいうとプラスになっている⋯としっかり明言しているし。
そして、「男たちを戦わせ続けて最後に勝ち残った男たちのチームに中王が勝つ」&「乙統女様が改心し自らの思想を修正してよりよい治世者になる」を両立してしまった乙統女様一人勝ちエンド、またの名を、男たちの物語から乙統女様の物語になってしまうため「男たちの物語」的には清々しいほどのバッドエンドである中王優勝ルート、これを実装したヒプノシスマイクというコンテンツも、とてもフェアなコンテンツであると、あらためて思う。
MIC AS ONEで全員がマイクなしで歌っていたことに動揺した話
ヒプノシスマイク、それは、あの厄介で魅惑的なマイクについての物語。18人の男たちと3人の女たち、その外にいる何人何百人何万人以上の人々を興奮の渦に巻き込んだ、すべての中心にあるマイク。しかし2022年の楽曲『CROSS A LINE』には
マイクを通せない いまだ不完全な理想
という歌詞があった。また同じく2022年には山田一郎が
「ヒプノシスマイクを使わないフリースタイルバトルをやってみたい」
と発言した。どうやらこの頃から物語内に“ヒプノシスマイクを使わない”というテーマが浮かび上がっている。ヒプノシスマイクの脱ヒプノシスマイク化である。
さらに2023年、天谷奴零が全ヒプノシスマイクを機能停止し、フェスが開かれる。フェス路線は一見急カーブに見えるけど、今思うと2022年から脱ヒプノシスマイク化への流れはあった。トンチキトンチキと言われる面もあるが、ストーリー的にはヒプはフェアに伏線を張るジャンルである。
そして2024年にはイケブクロ編最新話で「ドラマ内でヒプノシスマイクが使用されずに話が解決する」という金字塔が建ってしまった。
じわじわと災害級のあのマイク、ヒプノシスマイクが物語から旅立とうとしている。
近年の脱ヒプノシスマイク化の流れ、これはたぶん自分の言葉はマイクを通さず伝える、言うならば「卒ヒプノシスマイクエンド」への予備動作なのだ。さて、卒ヒプノシスマイクエンドとは何ぞや?
おそらく「ヒプノシスマイク」が終わる時、それは、自分の声というのは最後にはヒプノシスのないただの肉声で伝えなければいけないんだ…ということに全員が気づくときである。結局、マイクのないそのままの声、そのままの言葉、そのままの自分で相手と、世界と対峙しないといけないのだ。
「ドラえもん」の最終回が「さようならドラえもん」であるように、幸せな子ども時代の最終回はサンタクロースの真実を知ることであるように、ヒプノシスマイクの最終回はヒプノシスマイクとの別れになるはずなのである。マジックアイテムありきで始まった物語というものは、最後にはマジックアイテム無しで世界と向き合わないといけない。卒ヒプノシスマイクである。「ヒプノシスマイク」とはヒプノシスマイクとの別れをもって完結する、少しほろ苦い成長物語なのである。
⋯と、いうようことをずっと考えていたし、ずっと信じていた。ブログにも度々書いた。もちろんオタクの戯言である。
だからヒプムビのED『MIC AS ONE』で、本当に全員がマイクを持たずに歌っていた時には頭がくらくらした。全員手ぶら。盧笙は元から手ぶら。「ヒプノシスマイク」という名を冠した物語で、マイクすら使わない歌唱が本当に成立してしまった。21人の卒ヒプノシスマイク化が果たされてしまったのだ。スクリーンを眺めながら、もうこれで本当にヒプノシスマイクという物語は終わるのだと思った。
でもですね、最後の最後に山田一郎はあのマイクを取り出してくれました。良かった、本当に良かった。山田一郎があのマイクを握るかぎりヒプノシスマイクは終わらない、と信じて。それでは皆さんご一緒に
世話になるぜヒプノシスマイク!