サリンジャーから『メフィスト』へ、そして『ヒプノシスマイク』へ

 

ヒプノシスマイクARBというゲームがあり、ヒプノシスマイク大好き者として毎日楽しくプレイしているのですが、先日衝撃的な出来事がありました。


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あっと思った方もいるんじゃないでしょうか。

「九十九」に「中禅寺」…これはおそらく元ネタが「九十九十九」と「中禅寺秋彦」。共通点はどちらも雑誌『メフィスト』から生まれた文学賞である「メフィスト賞」を受賞した作品に登場する登場人物の名前なのです。


もしかすると山田兄弟の名前の由来って舞城王太郎なのではという話 - pyonkospicaの日記

当時、あまりの驚きでこちらの記事を書いたんですが、つまりヒプマイってかなりがっつり『メフィスト』系なのかもしれないのだ。

 

そうしたら親切な方が指摘してくださいました。

碧棺左馬刻邪答院もおそらくメフィスト系作品から由来した名前であると…!

 

というわけで読書した。

 

結論から言うと碧棺左馬刻(あおひつぎさまとき)の元ネタ?は西尾維新『ぼくと君の壊れた世界』の櫃内様刻(ひつうちさまとき)であり、邪答院(けいとういん)はたぶん祁答院(けとういん)。祁答院は佐藤友哉フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』等に登場する人物です。

 

つまり

九十九三郎→清涼院流水/舞城王太郎より

中禅寺三郎→京極夏彦より

碧棺左馬刻→西尾維新より

邪答院→佐藤友哉より

というのが各々の由来となり、この5名の作家は全員メフィスト賞を受賞している(厳密に言うと京極夏彦は違うが、メフィスト賞が生まれたのは京極夏彦の存在あってこそなので含めていいはず)のです。ヒプマイの中の人、『メフィスト』好きすぎる説。もしくは『ファウスト』好きすぎる説。(雑誌『ファウスト』は雑誌『メフィスト』の弟妹みたいな感じ。筒井康隆ラノベを書いたと世間を騒がせた『ビアンカ・オーバースタディ』が載ったのが『ファウスト』)

そうそう、ヒプノシスマイクには劇中劇としてカガミキヨシという探偵も登場したんですが、これも佐藤友哉鏡家サーガからやってきているのかもしれない。

 

メフィストかぁ、なるほど。どうりでギャグのような文学のような韜晦のような中二病のような暴力のような懐かしい世界観が心にすっと入ってくるわけだよヒプノシスマイク…と納得したんですが、櫃内様刻の出てくる『きみと僕の壊れた世界』、祁答院の源『フリッカー式』を読んでいると、またもや衝撃的なことが起こりました。

 

いい作者にはいい翻訳者がつく、サリンジャーがいい例だ。

『きみと僕の壊れた世界』より

 

公彦、サリンジャーを知らないのか?

サリンジャーだよ

全く…その年でサリンジャーも未読とは嘆かわしいね。

フリッカー式』より

 

サリンジャーがむちゃくちゃ出てくるのだ。

サリンジャーとは小説『ライ麦畑でつかまえて』、村上春樹訳なら『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の作者です。

たまたま読んだ別々の本に二連続でサリンジャーの名前が出てくるなんてことある!?

 

 

いえ、実は二連続ではないのです。

ヒプノシスマイクの原案者、百瀬裕一郎さんの小説『オール・ジョブ・ザ・ワールド』の主人公の名前はホールデン、その妹はフィービーであり、明らかにサリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』から引用されているのです。

もっといえば『きみと僕の壊れた世界』『フリッカー式』『オール・ジョブ・ザ・ワールド』これすべてひとことで言うと、妹のためにむちゃくちゃがんばるお兄ちゃんの話なんだわ。というわけでサリンジャー三連単。まるで魂の三つ子のよう。

 

百瀬裕一郎さんとライ麦畑でつかまえてについても以前ねっとりと書いたことがあるのでよかったらどうぞ


オール・ジョブ・ザ・ワールド 感想 - pyonkospicaの日記

 

そういえば佐藤友哉氏はかなりサリンジャーがお好きなのか同名の本も出しておられます。佐藤友哉版ナイン・ストーリーズはおもしろくて切ない。

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なんでしょう、このある種のメフィスト賞(+ヒプノシスマイク)とサリンジャーの親和性は。私も『オール・ジョブ・ザ・ワールド』を読んだ際にこれ“ライ麦畑”だと直観し『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んだんですが、なんと正直まったく刺さらなかったのでびっくりしました。もしかしたら私が15歳の不安定な少年だったらホールデンの言動がビシビシと伝わったのかもしれない。せめて15歳の不安定な少女だった時に読めばもっとクリアにキャッチできたのだろうか…?

(いっぽう短編集『ナイン・ストーリーズ』(サリンジャー版)は、よくわからない話もあるがむちゃくちゃ心を掴まれる作品もあり久々に感動した。こちらは昔読んだことがあったけど一話目の『バナナフィッシュにうってつけの日』がピンとこず当時はその先を読まなかったが、今回『バナナフィッシュ日和』を読んでもやっぱりピンとこなかった。しかし『笑い男』が最高にすばらしくてのたうち回った。)

 

そもそも『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は図太く社会の荒波にもまれた2020年代の大人の女が読んで深く感じ入るものではないのかもしれないぞ…という結論に至りそうになるが、いやいや、年齢だとか性別だとかは関係なく、単にこちらにホールデン的な素質がなかったんだろう。

 

さて

西尾維新氏は1981年うまれ

佐藤友哉氏は1980年うまれ

百瀬裕一郎氏は生年がよくわからないんですが、今はなき百瀬さんのTwitterで“『YAT安心!世界旅行』というアニメを見て考察していた”という文言を見たことがあります。1996-1998放映だそうなので1983年前後の生まれじゃないかなぁと勝手に想像しています。

みなさんまさにアラフォーなわけで、

1.なぜ日本のある種のアラフォー世代の男性はサリンジャーを好み、引用するのか

2.なぜある種の男性は「妹」を無条件に信頼し、信仰する類の物語を書くのか

という新たな謎が生まれたわけですが、なんとなく社会学の方なんかがもう論文を書いていたり、誰かが鋭い考察をしている気もします。時間があったら探してみたい。

 

2019年からヒプマイを追って3-4年ですが、ここにきて『メフィスト』要素に気づかされるとは本当に驚きました。やっぱりヒプマイって楽C。