フリングポッセが優勝したからKICK THE CAN CREWをたくさん聴いてみた

 

2020年11月28日から2021年11月28日まで1年間続いたヒプノシスマイクセカンドバトルシーズンが終わり、二代目王者はシブヤ代表フリングポッセになりました。

そして3月16日に発売となるシブヤ優勝曲の提供はKREVAさんだということです。KREVA氏といえば2000年代前半に日本のヒップホップシーンを盛り上げた伝説的チームKICK THE CAN CREWのトラックメイカーである、ということでこの機会にKICK THE CAN CREWたぶん全曲聴いてみた。ついでに気になった曲は感想も書いてみた。そしてなぜフリングポッセをKREVAさんが担当するのか考えた。

ところでヒプマイ、ZEEBRA氏にKREVA氏にスチャダラパーDragon Ashと日本ヒップホップのヒットチャート史を根こそぎさらっていて精力がものすごい。あとはRIP SLYMEかな…

 

VITALIZER(2002)

THE THEME OF “KICK”

缶の音からはじまるポップなトラックに被さるキーーックという野太いコール、という、開始60秒でこの人たちが才能の塊だということがわかるものすごい曲

 

マルシェ

紅白歌合戦でこの曲を歌ったらしい。すごく賑やかパーティーチューンなんだけど単なるウェーイとしたノリではなく

誰も置いてかない

こっちの世界も覗いてかない?

というリリックがあったりする優しい世界なのでとても気持ちが楽でいい。

 

ONEWAY

サビの後ろに流れるポンポンポーンという電子的な音がひたすら心地よく、早くポンポンポーンのターンにならないか待ち構えながら聴いてしまう

 

カンケリ02

これもトラックが気だるい感じで中毒性高い。いい…。足のばす足のばす足のばす…という繰り返しと合わせて永遠に漂っていたい

 

イツナロウバ

イケブクロディビジョンの楽曲IWGPにもit’s not overとして登場する有名曲。約20年前の楽曲のはずだけどit’s not overをイツナロウバと日本語に直し、さらにそれをタイトルにして出したというセンスがおしゃれでびびる。

 

神輿ロッカーズFEAT.RHYMESTAR

RHYMESTARとコラボしている豪華すぎる曲。まずRHYMESTARとKICK THE CAN CREWが同時期に活動していた人だったというのをしらなかった…

 

HANDS

KICK THE CAN CREWの曲ってあんまり仲間ありがとう絆最高ダチ最強みたいな感じじゃなくて、一期一会的なゆるい繋がりを大切にしている気がする。この曲の歌詞はまさにそんな気分

出会いなんて全部偶然だ

出会ったからにはないぜ終点は
だからまた逢おう

また行くよ

そうまた今度電話でもするよ

こういうのたいがい電話しないやつ

 

magic number(2003)

登場

シンプルなループの曲ってほんといいですねえ。THE THEME OF “KICK”の時も思ったけれど、こういう簡単(にみえる)ながらキャッチーな曲を名刺代わりに1曲目に持ってくるのは自分たちをどう紹介するかということなので、シビアな客観性が必要なわけだ。

 

アンバランス

KICK THE CAN CREWで1番好きな曲は何かと聞かれたらアンバランスだと答えたい。叙情的なトラックもいいし歌詞がむちゃくちゃいい。青春が終わってちょっとモラトリアムなダルい空気の再現が神懸かっていて必聴。ほんと好き。また、KTCC全体的に言えることだけど韻の踏み方がとても自然で芸術点が高い

マイアンサー No.1

快感の ワンダーランド

階段を上がんなら そう 今じゃない

今はアンバランス

a(n)aaで8コくらい踏んであるかな?

 

sayonara sayonara

内省的なリリックと控えめなトラックが噛み合う超すごい曲。エモです。

ところでこの超名曲sayonara sayonaraについてみんなはどう思っているんだろうとTwitterで検索したら、Twitter的に

sayonara sayonara=さよなら

と同じ語だとみなされるらしく、「さよなら」を含む、楽曲とは関係のないツイートばかり出てくるのでまったく感想が引っかからない。ということも含めて2000年初頭、Twitterのない時代に作られた曲だなぁということがあらためて判った。今ならもっと検索に引っかかりやすいタイトルをつけたりするのかも?

 

BEST ALBUM2001-2003

クリスマス・イブRap

山下達郎のクリスマス・イブをサンプリングした曲。なんかこう、文章でも絵でもTwitterのつぶやきでもなんでも「思いついたらどうしても形にしたくなり、せっかく作ったからには見てもらいたくなる」という欲望ってありませんか。吐き出したらスッキリするというか。そういうひらめきを最後まで形にしたらこうなったという印象。

 

GOOD MUSIC(2004)

この年に活動休止してしまったKTCC。最後のアルバムは少し元気でいわゆるヒップホップぽいワイルドさを意識してあるような気も???

 

KICK(2017)

千%

再始動後のキラーチューンです。「マルシェ」にも1000%って歌詞が出てくるけれどせんパーセントというタイトルが「せん」で韻を踏んでいて語感がとてもかわいい。ポップさに真摯な言葉が合わさった、ちょっとKTCC初期っぽい楽曲だと思う。などとKICK THE CAN CREW古参面してごめんなさいまったくの新米です。女声コーラスと男声ラップが織りなす祝祭感がたまらなくいい

 

 

ということでKICK THE CAN CREWのほぼ全曲聴いてみた感想なんですが、いわゆるギャングスタなヒップホップ的な、

金・権力・女に酒 奪い取る

だって大好きなだけ

という世界ではまったくない。(碧棺左馬刻様の歌詞より引用)

『アンバランス』の歌詞なんかは

別にやらねーわけじゃないぜ ママ&パパ

その話はちゃんとまた

次の次のまたその次 の次の日にでも

まーそのうち 今はちょっと手が放せなくて

先の事などは話せなくて

今日は今日 明日は明日だ

ねーだからやめてマジな話はさー

Oh だって安定安定

何回も言われたって関係なんて

俺には無いわけじゃないが

今は未来とかにあては無いなー

そのうちなんとかなるぜ将来は

だから見守ってちょーだいな

今日もまた沈んで行く夕日に

缶蹴飛ばして そー夢中に

あまりに素晴らしすぎてながながと引用してしまった。このダラダラとしたのらりくらりとしたなんか寂しい感じが最高すぎる。

イツナロウバ、マルシェ、アンバランスを生み出した当時、KREVAさんは25~27歳だったようです。20代で、まだはっきり何者でもなくてモラトリアムな時期を楽曲の中に固定するのが抜群にうまいというのが今回KICK THE CAN CREWを聴きまくってわかった。

また、KICK THE CAN CREWというチーム名だけど日本語にすると「カンケリ仲間」ってことです。絆とか地元の縁みたいな強い繋がりというよりかは、なんとなく集まって缶を蹴って笑っている仲間という、ポップなゆるい連帯を象徴する名前なんだろう。

あと、どの曲を聴いてもものすごーく耳なじみがよくて、ということはどういうことかというと、「自分のいいたいこと」を「みんなが聴いて楽しい作品」になるまで練り上げて昇華してあるということだと思う。こういう客観性ってクリエイターが仕事をするには持っておいた方がいい能力なんじゃないか。そしてKICK THE CAN CREWの曲をたくさん聴いて感じたのは、たぶんKREVAさんはその力がとっても高い。だってどの曲も無茶苦茶良いから。もちろんLITTLEさんもMCUさんも同じく。

 

というわけでKICK THE CAN CREW

・あんまり怖くない系ヒップホップ

・20代中盤の心情を描くのがうまい

・ゆるい繋がりのゆるさを尊ぶ

・クリエイターぢからが高い

 

…って、これフリングポッセのことじゃん!ということです。こんな適任があるだろうか?

イケブクロディビジョンほど固い縁ではなくて、ヨコハマみたいにダークな雰囲気でもなく、シンジュクほど大人ではなく、オオサカのもつ強い地域性とも違って、ナゴヤみたいな硬派な感じでもない。シブヤのちょっと虚ろで刹那的なふわふわしたチーム性にばっちりマッチしそうなKREVAさんの描くシブヤディビジョンの優勝曲が本気でとても楽しみです。

 

 

最後にどうでもい話なんだけど、

初代優勝曲提供 ZEEBRA

二代目提供 KREVA

となりました。

また、今後イケブクロディビジョンが優勝したらRHYMESTARが提供しようかな、みたいなことをラジオで宇多丸氏が冗談半分に言っていたので、たぶんゆくゆくRHYMESTARが来るはず。

このお三方には共通点があって、

ZEEBRA氏 慶應義塾(中等部退学)

KREVA氏 慶應義塾大学

宇多丸氏 早稲田大学

と、みんな立派な学歴、しかも東京出身なわけです。なんかこう、ヒップホップ界も東京一極集中なのかなぁと感じる不思議な現象なのでした。