忙しい人のためのヒプノシスマイク

 

 

橋本治の偉業のひとつに『桃尻語訳枕草子』という作品があります。枕草子を20世紀後半の女子高生言葉に翻訳したというものです。たとえば

「春はあけぼの」が

「春ってあけぼのよ!」

と訳されている。

これは何がすごいって、清少納言を女子高生にしたという発想もさることながら、それと同時にものすごく手堅く正しい訳になっているというのがマジすごい。(余談ですが、普通は枕草子の現代語訳だと「春はあけぼの」を「春はあけぼのがいい」と書いてあるんだけれど、原典は「春はあけぼのこそよけれ」ではなく「春はあけぼの」なんですよね。だから「春はあけぼのがいい」だと微妙に過剰な訳であり「春ってあけぼのよ!」のほうが原典に忠実なのだ)

 

ところで私はもう何年もヒプノシスマイク群の曲を聴いて歌詞を読んで生きているんだけど、ある日韻や言葉遊びでふんだんに修飾された最高にゴージャスでウイットに富んだリリックを眺めていたら、私は彼らの言っていることを汲み取れているのだろうか?というか彼らってつまりはどういうことを言っているのだろうか?とふと気になった。いったん韻を解除しリリックを逆にすごくミニマムにして、そしてできるだけ彼らの意図を組んで芯のところだけ取り出してみたい…!できたら140字くらいに…!めざすはツイッター語訳ヒプノシスマイク…!

 

そういうわけで考えたのがこちら

 

忙しい人のためのSHOWDOWN

イケブクロVSシンジュク

独歩「俺は観音坂独歩です」

三郎「ボソボソ喋ってますね」

ひふみ「悩める十代の助けになりたいです」

二郎「そのやりかたは古いです」

寂雷「君たちは勇ましいですね」

一郎「そうっすね新しい時代作ります」

 

シブヤVSシンジュク

帝統「貧乏性かっこわるい」

独歩「お金と魂は別物なんだよ」

幻太郎「死ね謝れ」

ひふみ「勝利の女神来ちゃった。ところで幻太郎君は何を隠しているの?」

乱数「ジジイには失望しています」

寂雷「飴村くん…私は…君を…」

 

イケブクロVSシブヤ

三郎「がんばればどうにかなります」

帝統「そんなのひっくり返します」

二郎「兄弟の絆で頑張るぞ」

幻太郎「君たちは洗脳されないように気をつけてね」

一郎「ラノベもいいけどバトルもね」

乱数「永遠に語り継げFling Posse♡」

 

『SHOWDOWN』は三つ巴になっており、バトル形式の曲なので主張を抽出しやすい。こういうのを考えるのむちゃくちゃ面白いですね…

 

忙しい人の -ヒプノシスマイDivision Rap Battle-+

 

全員「選手宣誓!我々はヒプノシスマイクででけえ悶着に決着をつけることを誓います!」

 

一郎「俺はイケブクロ代表」

二郎「兄ちゃんすごい。俺すごい」

三郎「サブローザ参上」

左馬刻「俺は左馬刻さまだ」

銃兎「国がバックについてます」

理鶯「調理するぞ」

乱数「オネーさんの寝顔みてるよ」

幻太郎「真偽珍奇佇恭順人間万事塞翁馬」

帝統「舐めプだけど俺がジョーカーだぜ」

寂雷「私に抗うのは愚かですよ」

一二三「ラップもホストも似たようなものかな」

独歩「キレたら何するかわからない…」

空却「破壊者だぞ」

十四「自己紹介してたら尺なくなったっす」

獄「クソ不味い珈琲はマジ無し」

簓「なんか人生物足らんねんな」

盧笙「先生やで」

零「龍が如く

 

全員「選手宣誓!我々は唸る俺のヒプノシスマイクで歴史を刻み未来を導くことを誓います!」

 

この曲は自己紹介形式になっているのでわりとわかりやすい。そして記念すべき12人のデビュー曲でもある。『ヒプノシスマイク』というコンテンツの始まりが選手宣誓なの、カラッと明るい雰囲気に合っていてとても素敵です。

 

忙しい人の -ヒプノシスマイクDivision Battle Anthem+ -

 

一郎「墓石にライム刻んどくわ」

左馬刻「左馬刻様だが」

空却「ナゴヤだがや」

簓「Chantがちゃうとかちゃうんちゃう?あんちゃん姉ちゃんちゃんと解ってるんちゃう?」

乱数「倒すね」

寂雷「竜胆の花言葉?“正義”です」

全員「ペンは剣よりヒプノシスマイク!」

二郎「なんかもう何もかもブッ壊す」

銃兎「でっち上げの罪用意しますが何か?」

十四「自分には価値がないなんて嘘ですよね…?」

盧笙「知は力なり。最後には勝とうな」

幻太郎「小生の言葉は脳髄に効きますよ」

ひふみ「月収12345600円でーす」

三郎「10万年前から全部解ってたよ」

理鶯「我横濱軍人也敵対勢力殲滅ス」

獄「コーヒー飲めなかったぜやれやれ」

零「おいちゃんBig pimpin'♡」

帝統「にゃー」

独歩「ブッコロスゾオイ!!」

 

全員「唸る俺のヒプノシスマイク!ペンは剣よりヒプノシスマイク!」

 

簓のパート、原詩では

神がかりなこの上方話芸

意味ありげで意味ない Garbag 

それがええんちゃう?  いけずなあんちゃん

出待ちのお姉ちゃん 解ってるちゃんと

笑いはオオサカ市民の聖歌(Chant)

フロウは浪花のベートーベン

 真っ当な答弁じゃ笑えへん

 ほんま「じゃん」とか寒いわ関東弁

となっている。

「笑いという戦い方が間違ってるなんてそんなわけないだろう?オオサカのお兄さんもお姉さんもちゃんと解ってるよね?」というオオサカの誇りと姿勢について言ってるんだろうなーと解釈した。

 

 

ところで個人的な印象だけどこのヒプノシスマイクという物語は本来そんなに長いおはなしではないように思う。おそらくヒプマイの当初の骨子は

1.TDDという伝説のチームがいた

→今はバラバラになっている

→男の敵中王区を倒すために再集結した

→男たちは中王区を倒し日本に平和がおとずれた

というわかりやすい縦糸に

2.フリングポッセの3人の正体の謎(クローン・ニセの幻太郎・総理の息子)

という横糸をからめたシンプルなストーリーだったのではないだろうか。しかし思いの外バズったのでだんだん肉付けが始まったのだと思っている。

天下のキングレコードは、女性だけで構成された中王区を男たちが倒すという前提にどう落としどころを付け、八方まるめたストーリーとして解決するのか…という点にもメタい注目が集まっていることだろう。

 

おまけ

中王区崩壊後にアナウンサーとして復帰したが、ついつい昔の癖が出てしまう無花果さん

「まぶしい日差しが降り注いだ東都。今日は各地で25度を超える夏日を記録し、真夏のような暑さでした。街は上着を片手に持つ人や半そで姿の下郎共が行き交い、初夏を思わせるような景色となりました。」