ヒプマイショートショート集

 

ツイッターに書くには長い妄想をショートショートにしました

 

 

あした


ぼくは自分の話をするのがへただ。
学級会でじょうずに発表できないし、自分の意見を言ったら笑われたことがある。クラスの人にも自分で考えたことを言えなくていつもがまんしてる。
お父さんもお母さんもあんまりぼくの話は聞いてくれてない気がする。たまにお母さんに話をしたら変なこと言うなって怒られることがあるし。弟はおしゃべりでお母さんにいろんな話をしていて、ぼくはそれをぼーっと聞いている。弟が変なことを言ってもお母さんは怒らない。

ぼくは自分の思ってることをどうやってみんなにつたえたらいいのかわからない。
それにぼくは自分の言ったことでお母さんやクラスのみんながいやな気持ちになるのもなんだかいやだ。

 


今日は学校の授業に弁護士さんが来てお仕事の話をした。
半分白で半分黒の変な服だったからみんな笑ってぼくも笑ったんだけど弁護士さんも笑った。
弁護士さんは先生とかお父さんとかお母さんとか習いごとの先生とかと全然ちがって背筋がぴんとしてる。


最後に質問コーナーがあって、竹田くんが「お仕事してない時はなにをしてますか」って言った。弁護士さんはバイクをいじったり乗ったりしてるって言ってた。
森田さんが「好きな食べ物はなんですか」って質問したら、弁護士さんはハムって言った。
山下くんが「きらいな食べ物はなんですか」って聞いたら弁護士さんが大きな声でこんな風に言った。

「俺には嫌いな食べ物がふたつある。
1つは、もやし
もう1つは・・・・・・」

 

 

ぼくはびっくりしてドキドキしながら家に帰った。今まで心の中でもやもやしてたことを弁護士さんが教えてくれた気がした。ぼくだっていろんなことを言ってもいいのかもしれない。言わないと伝わらないことがあるのかもしれない。


それで勇気を出して晩ごはんの時にお母さんに言ってみた。

 


「お母さん、ほんとはぼくサラダにフルーツ入ってるのきらいなんだ」

 

 

 

行政監察局副局長碧棺合歓の日記


4月1日

今日付で配属となり挨拶回りのようなことをした。いたるところピンクだし女の人ばっかりだ。帽子をとったり外したりするのが煩わしいのでいっそ帽子をかぶらないでいい役職につきたい、と軽口を言う相手もいない。

上司の無花果さんは露出度が高いのでどんな人かと思っていたが案外いい人かもしれない。あの胸にある中王区のマークはシールなのか、タトゥーなのか気になったが、まだ聞ける雰囲気ではないがいつか聞いてみようと思う。


頭が痛いので今日はこのくらいにしよう。最近ふとした時に頭痛がするから厄介だ。帽子のせいかもしれないからやはり帽子のない役職にしたいな。こんど無花果さんに聞いてみよう。

 

 

 

こいぬ座


席替えで山田三郎くんの隣になった。
三郎くんはすごい頭がいいんだけどたまに学校を休むから持ち物の連絡なんかがうまくいかなくて忘れ物をすることがある。
教科書を見せてあげたら近づいた三郎くんの睫毛が長くて目の際にほくろがふたつあるのが見えた。
ほくろ、こいぬ座みたいだねって言ったらこいつわかってんなみたいな顔をしたから二人で笑ったのはあの日の秘密。

 

その後どうなったって?
三郎くんの保護者面して毎日ラインしたり空の写真送ったりして、たまに学校来たらテンション上がって大声で話しかけたりして、両親いないって噂聞いたからお弁当作って渡したりしたら三郎くんはまったく学校に来なくなっちゃった。ほんとごめん。


弁当箱は綺麗に洗って宅急便で届いた。

 

 

 

ゴルゴンゾーラ


私は警察で働いている。
チーズとワインが好きだけど詳しくはない。スーパーで売ってるやつを買うのが好きだし満足していた。


そうしたら同じ署内の入間銃兎さんがチーズとかワインに詳しそう、という話を聞いた。シュッとしてるもんな・・・


ある日入間さんに回覧の書類渡すことになったから、
「こんどワインの話教えてください」
「おすすめのお店ありますか」
「よかったら飲みに行きましょう」
って冗談半分で言ってみた。
そうしたら「多人数での会食はこのご時世よろしくないですよ」ってニコッとしながら刺された。


帰りにスーパーに行ったらブルーチーズが半額になっていたが今日は買う気にならない。





確かに雨の予報だったけどこんなにいきなり振るとは思わなかった。
急いでコンビニの軒下に逃げこみ空の様子をうかがう。
まだ雲が厚いし切れる様子がない。
すると携帯電話で話しながらすごいボリュームのある黒い大きな人がこちらに向かってやってくる。
よく見たら毛皮だ、なんて服だ。雨粒が乗って丸く光っている。

その人は私の隣に来てゆっくりスマートフォンを仕舞うとちらっとこっちを見た。
さっきからチラチラ見てたのがばれてしまい恥ずかしくなってうつむく。その人はすごく背が高いのでとなりの私はメイちゃんのようだ。サツキでもいいけれども。

口角を少しあげながら毛皮の中をごそごそしたその人は小さな折りたたみ傘を取り出した。あの毛皮はどんな構造になってるんだろう。そしてのんびり組み立てると悠然とした足取りで雨の中に出ていった。

雨はまだやむ気配がない。

 

 

 

缶チューハイ


テレビを見ていたら某メーカーの缶チューハイが人気のため出荷停止になったというニュースをやっている。
「ひふみ、あのチューハイ出荷停止なんだって」

ふうんと言った一二三はグラスに氷を入れ炭酸水を注ぐ。冷蔵庫からレモン(もちろん国産だ)を取り出し半分に切りぐっと搾るのは爪まで整えられたシンジュクナンバーワンの手。
軽くステアされたグラスを持ちこちらに来るのをぼんやりと見ていた。


レモンの香気とパチパチはじける炭酸を楽しみながら、俺は缶チューハイのひやっとした冷気と指の腹にふれるべこべこと頼りない缶の感触を思い出していた。

 



行政監察局副局長碧棺合歓の日記


11月11日

今日は何も予定はないがごちそうを作らないといけないような気がするのはなぜだろうか。メニューは鯖の味噌煮に・・・パエリア・・・ペスカトーレ・・・・・・・・・


組み合わせがむちゃくちゃだし魚介類ばかりじゃないか。
おかしくて笑ったら涙が出た。